弘栄貿易株式会社
弘栄貿易ソリューションだから実現できた海外進出

KOHYEI PROJECT STORY

#01

作業の省力化とプラスチックごみ削減を
実現できるエコなソリューション。

合成樹脂事業部 合成ゴム・樹脂部
上野 泰治

KOHYEI PROJECT STORY #01

社内で誰も挑戦していなかった農業分野で、生分解樹脂をシート化することで新たな製品を生み出した。実現までの軌跡を振り返る。

不良品、そして負債、逆境からのスタート。

2006年から3年間をかけ、中期経営計画の一環として「PJ(プロジェクト)20」が立ち上がりました。1プロジェクト1,000万円、担当者のプロセスを重視し、結果責任は全て社長が負うので、プロジェクトを20個出そうという社内提案制度でした。私は2年ほどして、「生分解性マルチシート」の製造というプロジェクトを提案しました。生分解樹脂は土中の微生物や、紫外線などで樹脂が劣化し、最後は完全に水と二酸化炭素に分解されて土に還り、土壌汚染を引き起こさない材料。一般的な畑の畝には黒いシートが張られていますが、あれはポリエチレン製で、機械で張り、作物を植えて、収穫時に剥がし、最後は産業廃棄物としてお金を払って処分してもらう。それに対し「剥がさなくてもいいシートが欲しい」という需要が以前からありました。

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元はベンチャー企業からの話で生分解性シートを作るための機械や原料等を販売していたところ、その企業は実際に作りあげることができなかった。それでも農家の方は、「作ってくれると言ったじゃないか」と待ち望んでいる。結局ベンチャー企業は、製品を作ったものの不良品で、破れたところから雑草が生えて作物が育たなかった。そこで除草剤を撒いてまたお金が発生する。最終的に購入した原料や機械もそのままで、途中で頓挫したのをあるメーカーと当社で引き受け、保証金や原料、機械の代金など合わせて数千万もの負債を抱えたところからのスタートでした。

全ては農家の皆さんに喜んでもらうために。

農業における高齢化や後継者不足、機械化できない部分が効率化しにくく、生産性が上がらない問題は今でも抱えるテーマです。本当に農家の方が困っているし、現状を見ても世の中的にも、この資材は必ず存在意義があると感じました。ポリ製シートは剥ぐ手間も重労働で時間がかかり、環境にも良くないし、処理にはお金がかかる。昔で言えば、ポリ製シートの前は藁などを被せて畝を守った。基本的にその目的は、寒い時期に植えても根が張りやすいように保温する、雑草を生えにくくする、雨が少ない時は水分を保持、逆に雨が降った時は畝が崩れるのを防ぐ等があり、シートは良い作物を収穫するためには必要不可欠なものです。例えば、従来のシートを剥ぐのがお盆明けくらいの作物の場合、アルバイトを募集しても来ない。畝の長さは100mあって、それが10本で1km。しかも畑がいくつもある、炎天下での作業となれば、バイト代をいくら出しても誰も来ないのが現実です。

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つまり収穫ができなくなってしまう。そんな課題を解決するために、どういう配合で、どうやったら求められるシートができるかを手探りで始めました。何週間も現地で泊まり込んで試作を重ね、失敗してはまたテストしてもらえるよう農家の方に頭を下げ、4~5年はトライアンドエラーの繰り返しで、大した量は買ってもらえませんでした。やっと良いものになってきたと農家の方々に評価してもらえるようになって、農業団体も、この商品なら使えるということで、販売できるようになったのです。

時間ができて、先が読める、そんな農作業を。

生分解性シートのメリットは、一回張れば剥ぎ取らなくてもよく、収穫時に破りながら土にすき込むと微生物の餌になり、土壌も活性化して豊かになるので、地球にも優しく一石二鳥なところです。しかし、本当の意味で提供できた一番の価値は「時間」だと言えます。作業時間が短縮できるので、浮いた時間で次の作業ができる。作付け面積を増やすとか、兼業農家の場合は働きに出るなど、チャンスが拡がり良回転のスパイラルに入るきっかけになる。ポリ製シートよりも生分解シートの方が価格的には倍以上高価ですが、最短ルートで商品開発して直接販売しているので、農家の方が買いやすい価格設定で提供できている。生分解シートなら機械を入れて収穫できるようにすれば、真夏でもエアコンの効いたトラクターで作業ができるので、長い目で見ると値段的には高くないですね。

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さらに、最近の大型農家は、この野菜を何月何日に何トン、という風に取引先に計画納入することになっており、今までは雨が降ってシートが剥がせないと、指定日に納品ができなくなる。そういうことも無くなるので、計画的かつ正確に必要量を納入できるという、大きなビジネスチャンスにつながります。それができない農家の方は大手とお取引できませんよね。例えば、じゃがいもの加工品を作るプラントに納入する契約農家の方などは、やはり生分解シートを導入されています。それだけ、確度が上がって、安定生産、安定供給につながる資材というわけです。

いろんな意味で、弘栄貿易だから製品化できた。

まず、提案したら任せてもらえる社内の環境、自由さのある気風はありがたいですね。フラットな関係性で、協力体制も取りやすい。そういうところは弘栄貿易の強みにもなっているんじゃないかな。さらに、生分解といえば、すぐに対応する樹脂が見つかる仕入先があること。世界の一流仕入先とのお付き合いがあるので、それほど有名ではない弘栄貿易でも、扱っているものは世界一ですから。何十年も前の先輩方が、ヨーロッパのメーカーに直接取引を申し入れて、商売を続けてきたという歴史ですよね。信頼で築かれたネットワークを我々が今いただいているというのは、恵まれていると思います。より一層広げて強固なものにしなければならないのです。本当に優れた仕入先があるというのは、他にない強みですよ。

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私が入社した時すでに、デュポン社という世界No. 1のケミカル会社の代理店ですから、大手商社でもない当社が商材を扱えているのに感動を覚えました。デュポンのオーバルマークは化学業界では一大ブランドですから。ナイロンを作ったのもデュポンですから、誇りですよね。そういう化学に強い積み重ねがあるので、生分解性樹脂も分解の特性や、樹脂の硬さ、柔らかさ、こんなシートにしたいというのを考えた配合が実現できたと思います。シートを張るその土地や気候、使う季節などにより配合を変えれば、温暖な場所では微生物が活発で分解も進むから、分解が早くなりすぎない配合にしようとか、オーダーメイドで作れる。その土地の人たちが求めているものを形にできるのです。

本気で真面目に取り組むことで、相手にも通じる。

今思い返すと、無我夢中でした。だからこそ相手にも気が伝わる。その気になってやってくれると思いますね。マイナスからのスタートで、幾度となく農家の方に謝罪に行きましたが、何十軒もある中で、ある一人の方に「ずっとテストしてやるから、サンプル持って来い」と言ってもらった時は涙が出ましたね。しかし、きっと良いものはできるという自分の期待感もありましたし、絶対に必要になると信じましたね。そう思ったから諦めずに続けられたのかも知れないです。信じてやり抜くことで、機会にも恵まれていくと思います。我々は化学業界畑なので、農業のことはほとんど知らない。商習慣のこともわからないし、そこにいきなり行ってサンプル使ってくださいと言うので、最初は「何だこいつら?」と思われていたんじゃないでしょうか。

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今はマイ長靴、マイ作業着、マイ麦わら帽でどんどん畑に入って行く。そうやって農家の方と一緒に、農作業も手伝わないと、「どうせ分からないだろ?」と言われてしまう。苗を植えるのを手伝わせてもらったり、収穫時に応援に駆けつけたり、畦道で座りながら一緒にご飯食べたりしていると、「本当はこうなんだよ」といろんなことを教えてくれる。現場をきちんと勉強させてもらうと、全体が見えてくる。このプロジェクトも15年以上続いているので、やっと売上も数億円に成長しましたし、次の世代に、もっと拡大してもらいたいですね。まだ、販売できている都道府県や手がけた作物も限られていますし。日本以外でも展開できる可能性もあるので、さらなる商機を探ってアプローチして欲しいと思います。

info

合成樹脂事業部 合成ゴム・樹脂部:上野泰治

1986年4月入社、世界で初めてパソコンキーボードのカバーを樹脂で制作、同じく自転車のアルミダイキャスト製のパーツを樹脂で制作。ものづくりが大好き。